
はじめに
不動産の売買において、「土地と建物をどのように按分するか」は、取引の実態をどの程度適切に反映できているかという点で重要な論点です。
とくに売買契約書に内訳の記載がない場合、「固定資産税評価額による按分で足りるのか」「時価の比率による按分・不動産鑑定評価を検討すべきか」と判断に迷うケースは少なくありません。
固定資産税評価額方式は実務上広く用いられている方法ですが、
取引条件や物件の性質によっては、時価の反映が難しくなる場合があります。そのような場合には、固定資産税評価額方式だけ
では取引実態を十分に説明できないことがあり、時価の比率による按分、すなわち不動産鑑定による補完的な対応が検討される場面もあります。
本記事では、固定資産税評価額方式と、不動産鑑定評価(時価の比率を踏まえた按分)の違い、不動産鑑定評価が検討される具体的な場面について、不動産鑑定士の視点から解説します。
目次
この記事はこんな方におすすめです
- 売買契約書に土地建物の内訳がなく、按分方法に迷っている売主・買主の方
- 固定資産税評価額方式で対応してよいのか迷っている実務担当者
- 按分において不動産鑑定を検討すべきか判断に悩んでいる方
この記事でわかること
- 固定資産税評価額方式と不動産鑑定(時価の比率を踏まえた按分)の違い
- 不動産鑑定を検討すべき具体的なケース
土地と建物をそれぞれ時価の比率で按分するとは
そもそも「時価の比率による按分」とは、取引時点における実勢価格を踏まえて、土地と建物それぞれの市場価値を個別に見積もり、その比率に基づいて売買代金を配分する方法です。
具体的には、周辺の取引事例、公示地価・基準地価、収益性、建物の築年数や構造、減価の状況など、複数の要素を考慮して土地と建物それぞれの時価を推定し、その比率を用いて按分します。
実務上は、これらの要素を専門的に整理した不動産鑑定評価に基づいて時価を算定し、その評価額比率を用いて按分を行うケースが中心となります。
固定資産税評価額方式などの均一的な基準値を用いる方法とは異なり、取引時点において「この土地はいくら程度で取引され、この建物はいくら程度の価値があるか」を個別具体的に評価することが特徴です。
固定資産税評価額方式と不動産鑑定評価の違い

固定資産税評価額方式の考え方
固定資産税評価額方式は、市町村が「固定資産評価基準」に基づいて算定した評価額を用いる方法です。
評価は原則として3年に1度の評価替えにより見直され、全国共通の基準に沿って行われます。
土地(宅地)については公示価格等を基礎に路線価を付設して、画地計算を行い、建物については再建築費から経年による減価を考慮して算定されます。
算定された評価額は固定資産課税台帳に登録され、登録免許税や不動産取得税など複数の税目の課税標準としても用いられています。
このため、取引当事者の事情に左右されにくく、客観性と説明可能性を確保しやすい点が特徴であり、売買契約書に内訳がない場合の按分方法として実務上広く用いられています。
不動産鑑定評価の考え方
不動産鑑定評価(時価の比率による按分)は、取引時点における実勢価格を踏まえて、土地と建物それぞれの市場価値を個別に算定し、その比率で売買代金を配分する方法です。
取引事例、公示地価、建物の再調達原価や減価の状況、収益性など複数の要素を考慮し、現在の時価を算定します。
実態に即した配分が可能である反面、鑑定評価発注のための費用の発生や、どの資料に基づき、どのような考え方で鑑定を実施したかを合理的に説明できることが前提となります。
説明の精度が求められる場面では、不動産鑑定評価の枠組みを用いて時価を算定し、その評価額比率によって按分を行うことになります。
以上を踏まえると、固定資産税評価額方式は、全国共通の評価基準に基づく「均一的な基準値」を用いて土地と建物を配分する方法であり、取引ごとの事情に左右されにくく、客観性と説明のしやすさに優れています。
これに対し、不動産鑑定評価は、当該取引時点の市場実態や物件の個別性を反映した「個別評価」によって比率を定める方法であり、実態に即した配分が可能である反面、費用負担や評価根拠や算定過程についてより高度な説明責任が求められます。
固定資産税評価額方式と不動産鑑定評価の実務上の位置づけ
土地建物按分の実務では、内訳がない場合、まず固定資産税評価額方式によって按分を行い、税務上の合理性を確保するケースが一般的です。
固定資産税評価額方式は、全国共通の評価基準に基づいて算定される評価額を基礎とするため、取引当事者の事情に左右されにくく、客観性と説明可能性を確保しやすい点が大きな特徴となっています。
もっとも、固定資産税評価額方式が常に取引実態を十分に反映するとは限りません。
評価額は一定の基準と周期で算定されるため、実際の取引価格や物件ごとの事情とずれが生じることがあります。
その結果、物件の状況や取引条件によっては、評価額と実勢価格との乖離が大きくなり、この方法だけでは説明が難しくなる場合もあります。
そのような場合に検討されるのが、取引時点の実勢価格を踏まえた時価の比率による按分です。
土地と建物それぞれの市場価値を個別に算定し、その比率で配分することで、固定資産税評価額方式では説明しきれない取引実態をより的確に反映することが可能になります。
実務上は、不動産鑑定評価を用いて実勢時価を算定し、その評価額比率によって按分を行うケースもあります。
なお、不動産鑑定評価を用いた按分は、固定資産税評価額方式に代わって常に用いられるものではありません。
固定資産税評価額方式では説明が難しい場合に、説明力を補う手段の一つとして検討されることが多い方法です。鑑定を用いることで実勢価格に即した配分を示しやすくなります。
固定資産税評価額方式だけでは取引実態の説明が難しいケース

では、固定資産税評価額方式だけでは取引実態の説明が難しいケースとは、具体的にどのような取引でしょうか。
次のような取引では、固定資産税評価額方式だけでは取引実態を十分に説明できず、按分の合理性が問題になりやすいため、不動産鑑定評価による補完的な説明が有効となる場合があります。
①事業性・収益性を重視する取引
飲食店舗やオフィスビル、賃貸用不動産など、事業用・収益用として取得される不動産では、土地建物の按分割合が、消費税額、減価償却費、将来の譲渡所得計算などに与える影響が大きくなります。
そのため、取引金額の多寡にかかわらず、税務調査において按分の合理性がより慎重に検証される傾向があります。
固定資産税評価額方式は一般的に用いられる方法ですが、商業用不動産や収益物件では、実際の取引において収益性や投資利回りが重視されることが多く、また、土地建物の収益性への貢献度が固定資産税評価額の土地建物比率と完全に一致しない場合や鑑定評価額との乖離が生じる場面も少なくありません。
このような場合、「形式的に評価額比で按分していないか」という観点から、取引実態を踏まえた説明を求められることがあります。
②建物本体と附属設備まで区分して按分したい場合
土地と建物を区分するだけであれば、固定資産税評価額方式でも按分は可能ですが、さらに建物本体と附属設備まで按分する場合には、不動産鑑定評価等を活用して細分化する必要があります。
建物本体と附属設備では耐用年数が異なるため、どの部分が本体で、どの部分が設備に当たるか、またそれぞれの取得価額をどのように見積もったかによって、毎期の償却費が大きく変わり得ます。
そのため、取引金額の多寡にかかわらず、個別具体的な取得価額の配分について合理的な根拠が求められやすい領域です。
不動産鑑定においては、建物本体と附属設備を構成部位ごとに整理し、工事費の内訳や再調達原価の構成比を踏まえたうえで、取得時点までの損耗等を考慮しながら、評価時点の価値構成として合理的に区分していきます。
これは、実務において、売買契約書に内訳がなく、設備の範囲や金額を裏付ける資料が乏しい場合には、税務調査の場面で、「設備を区分して償却するための根拠をどのように整理したのか」について、取引実態に即した説明を求められることがあるためです。
このような説明に備えるためには、工事請負契約書や固定資産減価償却内訳明細書など、設備部分の割合を合理的に算定できる資料を用いて整理しておくことが重要となります。
まとめ|不動産鑑定評価は固定資産税評価方式の代替ではなく補完として活用する

土地建物按分の基本は、まず売買契約書の内訳を確認し、内訳がない場合には固定資産税評価額方式を用いることです。
不動産鑑定については、これらの方法では合理的な説明が難しい場合に、補完的な手段として活用を検討することが考えられます。
不動産鑑定を用いることで実勢価格に即した配分を示しやすくなりますが、原則は固定資産税評価額による対応であり、必要に応じて合理性を補強する手段として用いるという整理をしておくことが重要です。
まずは税理士の先生に相談し必要に応じて鑑定士と連携
まず、実勢時価による按分の必要性を感じている場合には、税理士の先生に相談のうえ、固定資産税評価額方式で十分か、追加対応が必要かを検討することが重要です。
原則としては固定資産税評価額方式で足りるケースが多いものの、これだけでは合理性の説明が難しい場合には、不動産鑑定士と連携して評価根拠を補強することが、実務上有効と考えられます。
当事務所では、土地建物の鑑定評価按分の検討をされている方や、税理士の先生からのご相談を承っております。
不動産鑑定による土地建物按分の検討をはじめ、実勢時価の調査や固定資産税評価額との乖離の確認などを通じて、鑑定の必要性についてご案内させていただいておりますので、下のお問い合わせフォームよりお気軽にお問い合わせください。